京都からミャンマーへ、30代女性CEO「おカネがない、学歴がない、派遣社員」をバネに事業拡大

京都からミャンマーへ、30代女性CEO「おカネがない、学歴がない、派遣社員」をバネに事業拡大
 
 

3月8日「国際女性デー(International Women’s Day)」が国連に認定されてから今年で46年目。とはいえまだ歴然とあるのがジェンダーギャップ。コロナで拡大するこの不平等を改善するため、生活に困窮する女性たちの自立を支援する金融事業、マイクロファイナンス(MFI)が拡大しています。ミャンマーで8年にわたりMFI事業を営むMJI EnterpriseのCEO、加藤侑子氏を取材しました。

マネジメント経験ゼロから顧客3万5000人、融資10万件へ

京都出身の加藤氏がミャンマー入りしたのは2013年、29歳の時。日本籍の金融会社のミャンマー法人にて採用され、現地調査と法人の立ち上げ準備に着手しました。しかし最終的に、当時の経営基盤である親会社が2018年ミャンマー市場撤退を決定。加藤氏は1万人近くの顧客と60人以上のスタッフを守ろうと、設立した現地マイクロファイナンス機関を買い取るマネジメントバイアウトを実施。 少額融資により自立する女性の輪を広げようと、 日本にて社会的インパクト事業を手がける親会社ワラムを設立。そのミャンマー子会社法人という形で監督官庁の承認を得ました。

加藤氏の主な顧客は、貧困層にあたる農村地帯の女性たちです。 事業の着実な成長により2020年8月現在で延べ顧客3万5000人、スタッフ110名、延べ融資件数10万件を達成。利益も出始め、3期連続黒字を達成しています。しかしここまでの道は実は険しかった、と言います。まずマイクロファイナンスとは何かを学ぶため、ミャンマーにおけるMFIの第一人者に師事。顧客の事業と生活を第一に考える、ソーシャルビジネスの金融理念や基礎を学び、ようやく2014年に認可ライセンスを取得したのでした。

高卒女性に経営者が務まるのか

加藤氏が経営者になったのは、偶然から生まれた必然でした。バブル崩壊後の幼少期、父が事業に失敗、借金を抱えて倒産。以来、「うちはお金がないから大学に行けない」と母から繰り返し聞かされ、未来を諦め、「お金は人を傷つけ、不幸にする」と信じた。経済難をきっかけに壊れていく家族を見て、お金へのマイナスイメージは強まる一方。高校時代すでにひどい家庭環境だったと言います。しかし、そんな状況でもタイとの交換留学プログラムに参加するチャンスをつかみ、海外への生活に興味を持ちます。しかし高卒という学歴で選べる仕事は、海外には縁遠いものばかり。生きるためにできる仕事を渡り歩きました。

そして転機を迎えます。派遣社員として証券会社に入り、為替、国際、株など金融業を目の当たりに、お金の力ならびに世界とつながる面白さに開眼するのです。その後、入社した会社で初めての海外出張を経験。海外でビジネスに携わることへの思いを強くします。それが、ミャンマーへの転職につながりました。

当時の加藤氏は、いわゆる学歴も英語力もない状況。思いと人との縁だけを力に歩み続けた結果、師やスタッフ、そして何より女性のお客様たちとの出会いによって道を切り拓いていったのでした。

ファイナンス以外の貧困層へのアプローチとは

マイクロファイナンスを受ける女性たちは、ビジネスウーマンとしての自覚を持ちます。子どもに教育を受けさせようと、未来に対して、とても明るく前向きだと言います。それに気づいた加藤氏は経営者として、自身の幼少時をふり返り、ビジネスを通じて「こどもが貧困によって涙することのない世界」を目指すようになります。これが2018年の独立の決断にも影響しました。

経営を始めてから 、「論語と算盤」や「社会的共通資本」など沢山のキーワードに出会ってきました。直近ではトマ・ピケティ 原作・監督・出演の映画「21世紀の資本主義」の中で語られる「非エリート層による民主主義の刷新」にも感銘を受けます。 こうした学びを活かし、短期的な利益追求や株主資本主義に陥らない「ステークホルダー資本主義」実践のため、自社の利益がクライアント、従業員、株主にいきわたるように事業運営をしています。

MJIでは同時に、ファイナンス以外の貧困解決策も模索しています。活動する村では、貧困層は新聞、本を読むことが少なく、ビジネス情報や金融知識、健康医療に関する理解を得る機会が限られることに着目。ミャンマー現地のビルマ語にて金融リテラシー、ビジネス、教育、保健などに関する啓蒙のため、「Mango!」という雑誌を他の日系社会起業家と共に創刊しました。毎号約2万部を発行、メディア事業を展開しています。※現在は新型コロナウイルスの影響で発刊停止中

原体験にもとづいて「お金の流れを変える」

ミャンマーに渡ることでマイクロファイナンスに出会い、貧困層、女性から学び、利益を循環しながらビジネスを拡大。その流れを日本にも持ち込めないだろうか。経営者としての歩みを進める中で加藤氏は、資金調達の方法も多様化させています。ソーシャルインパクトに寄与するクラウドファンディング「セキュリテ」を運営するミュージックセキュリティーズ、ならびに、「働きながら社会を変える」をテーマに全員プロボノで社会課題に向き合うLiving in Peaceと提携。ひとりでも多くの人にMFIを知ってもらえるよう、日本で「LIPミャンマーMJI貧困削減ファンド」を立ち上げて、資金調達と啓蒙を行いました。一口3万円からと敷居を低くし、 投資家がお金の価値を見直しながらファイナンスの可能性を知る機会を提供。クラウドファンディングが、ミャンマーの鶏になり卵になり笑顔になり、さらに日本の投資家にリターンとして戻ってくる、という経済循環とふれあいを生んでいます。

こうした有志によるファイナンスが、運用レポートや通帳に記載された数字以上の、熱量高い社会的インパクトや意義を生みます。 「マイクロファイナンス、クラウドファンディングという金融が、体験を与えてくれる。思いを共有できる」と加藤氏は述べます。

最後に筆者から、「お父様の倒産がなかったら今の加藤さんもMJIも無かったのですね」と質問。加藤氏は笑って頷きながら、「優しいお金と金融のある世界を作りたい」「お金の流れの一旦に関わるものとして、理念を持って経営していきたい」と抱負を述べます。クーデターによって平和的な非武装の抗議隊に対する弾圧と殺戮ともとれる国軍からの攻撃が続くミャンマーに思いを寄せ、「暴力と人権侵害を止め、平和と平等の実現に貢献したい」と決意を新たにしています。

関連記事:   PRニーズ高まるESG投資の拡大、マイクロファイナンスの可能性
小泉環境相が促進する日本の食、ファッション~サーキュラー・エコノミー国際PR合戦

運営者情報
共同ピーアール株式会社

MJI Enterprise Co., Ltd. CEO 加藤侑子氏 (右)
MJI Enterprise Co., Ltd. CEO 加藤侑子氏(右)と筆者(左)

PR、PR会社とはカテゴリの最新記事