PRが知るべきマーケティングと経営の全体像

PRが知るべきマーケティングと経営の全体像
 
 

この10年ほどのクラウド利用のトレンドの中で、5年ほど前までの話題が「デジタルマーケティング」だったのは隔世の感があります。この数年でDX(デジタルトランスフォーメーション)も一般用語となり、日本のデジタル庁発足がこの9月に迫っています。

そしてコロナにより、仕事はもちろん生活も消費もオンラインに移り、人々の体験は大きく変わっています。とはいえ、企業組織のあり方や企業文化の変化はなかなかそのスピードには追いつけない、というのがPR会社の現場から見える現状です。 『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスとの共業プロセス』( 福田康隆著、翔泳社刊)は「カスタマーサクセスと営業の融合」「顧客とのリレーション構築」の重要性を説いていますが、これからの時代、企業が提供すべき「おもてなし」とは何でしょう。通話記録・対話分析を強みに、クラウド活用による企業のDXを支援するナイスジャパン株式会社の社長 安藤竜一氏に話を伺いました。

デジタルのおもてなしを描けてますか

まずは筆者の私事で恐縮ですが、GIGAスクール構想によるIT端末配布が功を奏したコロナ下の小学校では、保護者が子どもの学びを自宅にて手に取るように見られるようになりました。デジタルネイティブな子ども達は、受け取った新品の端末をなんなく操作して、デジタル体験を生き生きと楽しんでいます。先日は、1年生から6年生まで、全員で音読の劇を演じ切る学芸会を鑑賞し、親としてはまるでオンラインのおもてなしを受けたように喜びました。

一方で、20年にわたるコンタクトセンタービジネスと、稼業である旅館運営の二足の草鞋を履き、「おもてなしとはなにか」を追求する安藤氏の指摘は鋭く多岐にわたります。金融業界を始め、数万席に上る大規模コンタクトセンターの運用を支え、企業とユーザーの接点を極めてきた安藤氏は「日本では多くの経営者がコンタクトセンターの重要性を認識していない。マーケティング、営業、サービスが三つ巴になるべきところが、バラバラ」と課題を挙げます。

かつてコールセンターと呼ばれた企業へのお客様窓口は、電話のインターネット融合、コロナで加速したコミュニケーションツールの多様化とともに、コンタクトセンターとして進化しています。ユーザーを多面的に、快適にサポートするために、クラウド化したコンタクトセンターの活用が拡大していあす。コンタクトセンターの強みは、企業内のどこよりも確かな数値管理だと言います。オペレーターが着席し、ログインしてからお客様との会話が終わるまでのAHT(アベレージハンドリングタイム)が詳細に数値化されて、成功指標のKPIを可視化しているのです。

日本の最高品質と、経営者の未来像

アメリカ勤務も長かった安藤氏は、日本と海外のコンタクトセンターの違いも指摘します。「日本のコールセンターのおもてなし水準は高い、人のサービスレベルが高い」と品質では日本に軍配を上げる。一方、運用効率の面ではアメリカ、ヨーロッパにはまだ追いついていないのが現状です。

日本のコンタクトセンターの課題について安藤氏は「企業がお客様と対等になってカスタマーサービスを作る土壌ができていない」と述べます。「お客様は神様だ」という妄信の前に、企業が伝えるべきメッセージ、事業戦略、お客様の将来のための提案が霞んで見えないのです。

これは日本のDXの停滞にも同じことが言えるでしょう。DX実現はより豊かな、明るい未来のためにあるはず。しかし、「日本の経営者は、DXもコンタクトセンター同様に、「コストの対象」と考え、自社があるべき姿、打ち出すべきメッセージを打ち出せていない。そのために、DXといった概念やコンタクトセンターという組織運営を商機に活かせず、機会損失している」と安藤氏は指摘します。

「企業は人の配置、育成と投資についてこれからの戦略を立てなければならない」と安藤氏は説きます。DX推進、クラウド化により浮いたコストは、これからの利益や価値につながる部署新設、人材育成につなげるべきなのです。週末は自らの旅館で料理をふるまう等身大の経営者、安藤氏は「経営にビジョンを」を力説します。

「日本はマーケティングの力が弱い。CMOが不在で組織は縦割り。これではマーケティングが獲得したリードを育てられない、営業とマーケティングが分断している」という変わらない日本の組織の在り方にも手厳しい。「経営者は企業としてのビジョン、パーパスを明らかにし、最適な投資を」と安藤氏は提言します。

安藤氏の座右の銘は「求道者」。学術や芸術、スポーツなどを極めようと探求している人を指します。NICEが求道者として目指すのは、「分析力の向上」「自動化の推進」「真のクラウド化の促進」です。

安藤氏は「日本では『おもてなし文化』という言葉がまやかしになっている」とも述べます。日本の得意芸といわれるおもてなしが感覚値の話に留まり、数値化できていないのが課題なのです。おもてなしは科学で証明できる。それを怠る企業の怠慢は、結果的にユーザーの信頼を裏切ることになります。

親密になった顧客には、自らの旅館で交流を続ける、おもてなしを体感してもらう、というこだわりを見せる安藤氏。「これからの企業は、パーソナライズされたマーケティング、経営パーパスの明示、透明性の確保により次の時代へ羽ばたこう」と力強く提言しました。

ナイスジャパン株式会社の社長 安藤竜一氏

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