ワーママ社員のゲンバ考
 
 

新卒で共同ピーアールに入社して20年近く。その間、結婚と出産を経てPR現場に復帰し、娘は4月に保育園から幼稚園に転園と、なかなかバタバタした日々を送っています。それでも愛着があるPRのゲンバ(現場)について、ご紹介したいと思います。

PRパーソンがちょっと得意げに

私が入社したばかりで右も左もわからない頃、最も印象的だったのは、おじさま上司の「今日はゲンバだから!」という挨拶でした。エレベーターを降りるとき、乗り込んできた同僚にすれ違いざま、得意げに口にするこの「ゲンバ」。数あるPR会社の業界用語の中でも、独特な空気感があるものです。

このゲンバとは、記者会見や芸能発表会、あるいはインタビュー対応や撮影など、ちょっと気合いをいれて準備をし、その場を仕切るイベントのことです。会見など大規模になれば、時には数日徹夜をしながら膨大な準備を整えることも多々。いよいよやってきた当日は、いざ出陣、という高揚感すら漂います。ゲンバという言葉には、“イベント”や“会見”では言い表せないPRパーソンの矜持のようなものを感じます。

Just be there=その場にいなければ負け?

PRだけでなく広告でも、ゲンバに人を多く配置する傾向があります。広告代理店の営業マンだった父は、度々「Just be there=その場にいなければ負け」という教訓を与えてくれることがありました。

その理由は

①突発的に人が必要になることがあるから(物を持ってくる、交通整理など)

 =足りなくなるより余る方がマシ

②ゲンバを見ることで次の提案の課題設定や営業に生かされることがあるから

③ゲンバにいなかったことで、お客様の心象が悪くなり、後々信用を失う懸念があるから

など。

不要なリスクを負うくらいなら、ゲンバにはマスト(必須)で参加することが、プロフェッショナルとしての精神的安定にもつながるのです。

今も昔も主戦場

私も体力があった時代は、そんな“ゲンバ”も数多く経験させていただきました。ワークライフバランスなどという言葉も存在しない平成時代で、ゲンバは何よりも最優先の主戦場でした。

しかし30代後半に2年近い産休・育休の後復帰してワーキングマザー(ワーママ)となってからは、娘を保育園に迎えに行くために定時退社死守の生活。夕方以降の業務、出張からは外してもらい、自然と“ゲンバ”から遠ざかることが多くなりました。チームの理解ある若者や柔軟な上司に甘え、多少の罪悪感を抱えながら。(⇐ 編集注:お互いさまです、罪悪感はいりませんよー!)

そんな折、ついに私にも今年早々“ゲンバ”復帰の契機が訪れました。お客様が上海の展示会に出展するのに伴い、製品を中国メディアに対してPRするためのインタビュー対応プロジェクト。同僚が万端の準備を整えていたにも関わらず、ゲンバ出張への出発の朝、空港でのトラブルにより急遽キャンセルに。他のスタッフもゲンバが重なっており、担当で行けるのは私だけ・・・。すぐに夫にメールをして子守を依頼し、夕方の飛行機を手配、パッキングのため一旦帰宅しました。

もちろん、一番の気がかりは娘のこと。無類のパパっ子にも関わらず寝る時はどうしてもママじゃないとイヤ。2泊3日も家を空けることに心が痛みました。さらに、ママがいない、と泣かれたくない夫から、娘にちゃんと事情を説明しろとのリクエスト...。

よけいに心細さを増幅させるのでは、との懸念もありました。が、羽田空港に向かう途中で渋々保育園に寄り、先生に事情を説明してお昼寝中の娘を起こしてもらいました。「ママはどうしてもお仕事で、今日と明日、一緒に寝られないけど、パパとお留守番できるかな?」すると娘は「うん」とだけ答えましたが、悲しみをこらえていることがよく分かり、胸が締め付けられました。

しかし、上海での怒涛の“ゲンバ”を終え、急いで帰宅すると、はじける笑顔で抱きついてきた娘。「ママがいなくても泣かなかったよ!」と誇らしげで、何だか私の方が泣きそうでした。

令和時代のプロフェッショナル

あの時、母親の私が仕事で家を数日空けたことに関して、苦言もありました。私自身も、チームやお客様の理解があり、無理する必要はない、と言ってもらえる環境の中、強行することが本当によかったのか。振り返って自問しました。

しかし、いま冷静に振り返っても、あの時の私にゲンバ出張を断る選択肢はありませんでした。それは上記のようなPR会社のサガとか習性のようなものなのか、父の教訓が頭をよぎったからなのか。いずれにしても感覚的な部分が大きかったかもしれません。

一方で令和のこの時代、ここまで働き方改革の概念が浸透してきています。これからのワーママPRパーソンは、子どもにとって負担が少ない働き方を、気兼ねなく選べるかもしれません。

もしそうだとしても、ゲンバにいるかいないか、ゲンバで何をするのか、それを最終的に決めるのは自分自身です。そこには自立したプロフェッショナルとしての判断力が求められてくるのでしょう。そしてそれはワーママかどうかに関わらず、全てのPRパーソンに共通したものだろうと想像するのでした。

これからも環境が変わり続ける中で、今の自分、アラフォーらしいゲンバとのつきあい方を私なりに探していきたいと思います。

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