ネスレのCSV経営とマーケティング

ネスレのCSV経営とマーケティング
 
 

ワールドマーケティングサミット東京2019の午後、「CSV経営とマーケティング」のパネルディスカッションでは、ワールドマーケティングサミットグループCEO サディア・キブリア氏に続き、ネスレ日本株式会社 執行役員コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來氏が登壇しました。

エモーショナルな製品が選ばれる

嘉納氏は、まずネスレの歴史から、企業としての存在意義をひも解きました。1867年、ネスレの創業者アンリ・ネスレは、栄養不足で死んでいく赤ちゃんたちに心を痛め、安全で栄養価の高いミルクを作って起業しました。以降、「企業活動を通じて社会課題を解決し、人々の生活の質を高め、さらに健康を広げること」がネスレの存在意義となり、「社会に良いインパクト(影響)をもたらすこと」を追求しています。

嘉納氏は、ネスレが考える存在意義を、

の3軸で説明。


・個人・家族


・コミュニティ


・地球

個人・家族には、良い製品・サービスの提供。コミュニティにおいては、原材料であるカカオやコーヒーの供給網、バリューチェーンを構成する農家、ビジネスパートナー、そして社員の幸せを実現することで、長期的成功が可能になる。地球には、未来の世代ために環境負荷ゼロを目指す。

これらを通して、ネスレとしての存在意義を体現し、CSV(Creating Shared Value)つまり共通価値の創造を実現する。これは、売上至上主義や利益は株主のものといった考え方を排除し、社会のための価値創造を追求することで可能になる、と述べました。

そして、「本業を通じて社会課題を解決、社会的価値を創造することは、企業として果たす責任であるだけでなく、ビジネスチャンス、競争力の源です」と言い切りました。

さらに、チョコレートブランドのキットカットを例に挙げ、いかに個人・家族における感情的(エモーショナル)な価値を作ってきたかを解説しました。

イギリス発が九州でブレイク

“Have a break(休憩を取ろう)”をキャッチコピーにイギリスで作られたキットカットは、単なる美味しいチョコレートだけでなく、「希望のために人々を励まし続ける」「いつでも前向きに進むことを励ます」というメッセージ性を持っています。

その心が生まれたのは2000年頃のこと。消費者調査から分かった日本人の“休憩”の捉え方は、「ストレスからの解放」というものに着眼したのが始まりでした。九州の中高生の間で、「キットカット」が「きっと勝っとう(勝ってる)」という方言の語呂にマッチしていると話題になり、自然発生的なブームが生まれていました。

そこでネスレは、「頑張る人を応援する」とう情緒的価値をもたらす受験生応援キャンペーンを開始。以来20年近く、対象を受験だけでなくスポーツ、夢や希望、さらには自然災害などの社会課題にも広げ、挑戦者や被災者の応援を続けています。

カカオ豆も地球も守る

また、コミュニティへの貢献として、チョコレートの原材料であるカカオ豆に着目。現在、世界人口が増えてチョコレート消費も拡大する中、数百万というカカオ農家は高齢化や苗木の病気などにより供給課題を抱えています。

そこでネスレは、品質の高いカカオ豆にはカカオ農家の生活向上が欠かせないと考え、“ネスレ カカオプラン”プロジェクトを開始。よりよい農業、生活、カカオ育成のための技術支援や、病原菌に強い苗木の研究開発、さらには学校の設立、児童労働問題の解消などに貢献する活動を20年近く実施しています。

さらに地球に対しては、世界が抱えるプラスティックゴミの問題への取り組みを進めています。9月30日から、キットカット主要製品の外袋を、プラスチックから紙パッケージに変更。これによりネスレ日本全体で年間380トンのゴミを減らします。(参考:プレスリリース

2021年には外袋の中の個包装をリサイクル(資源再生)しやすい単一製品に統一、2022年には日本のキットカット製品のすべての包装をリサイクルおよびリユース(再利用)可能なパッケージに切り替える計画です。

こうした取り組みは、短期的にはコスト増になります。しかしこれは、キットカットがチョコレート市場でトップブランドとなった今、「製品を通じて企業としての存在意義(パーパス)と共通価値の創造(CSV)を体現し、業界や社会をけん引していくというミッションを担う」「キットカットが地球、人類にとって価値ある存在になるために必要な決断」と嘉納氏は述べました。

折り鶴に込めたメッセージ

ネスレ日本では、キットカットの包装を紙に切り替えるにとどまらず、メッセージを使える形を日本伝統の折り鶴に込めました。折り鶴をコミュニケーションツールにすることで、紙パッケージを親しい友人、家族に伝えられる、プラスティック問題を一緒に考えるきっかけ作りを促進しています。

嘉納氏は最後に聴講者に向けて「今日、この一日が、マーケティングやイノベーション、社会課題の解決に取り組む皆さんにとって実りある日となりますよう」と述べ、思いを込めて朝折ってきたという折り鶴を掲げて微笑みました。

関連記事:
<午前プログラムレビュー>
基調講演(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院教授、フィリップ・コトラー氏)
講演(富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO 古森 重隆氏、ネスレ日本代表取締役社長兼CEO 高岡 浩三氏)
パネルディスカッション(フィリップ・コトラー氏、高岡 浩三氏、モデレーター:IMD北東アジア代表 高津 尚志氏)
<休憩>
<午後プログラムレビュー>
講演(カリフォルニア大学ロサンゼルス校ビジネススクール教授 ドミニク・ハンセンズ氏)
パネリスト登壇(ワールドマーケティングサミットグループCEO サディア・キブリア氏)

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