広報部門の新たな役割

高度化する広報部門のKGI(重要達成目標)

1.広報部門を取り巻く環境の変化

コミュニケーション環境の変化
  →情報爆発時代。(99.996%の情報はスルー)
  →情報の受け手から発信者になった生活者
  →新たな強力メディアの登場
  (コンテンツを作成しないプラットフォーム<ポータルサイト>やオンラインメディア)

外部・内部環境の変化

  • ・国際化
  • ・M&A
  • ・SM進展
  • ・発言する社員

2.SNS時代の広報

情報過多→信頼できる情報とは?
  信頼性の高いSNSで友人・知人から届く情報に依存

誰もがメディアになれる
  →社外だけでなく社内からも情報

「マス」から「クラスタ」へ
  →マスの消減

高度化する広報部門のKGI(重要達成目標)

これからの広報活動(PR)の目的

ステークホルダーの声に謙虚に耳を傾け(広聴=ソーシャルリスニング)
その上で、企業の考え方や活動を対話を通じて伝え
企業に対する期待感を醸成する(企業価値の創造へ参加してもらう

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5つの要素

  • 1.誰(ステークホルダー/ターゲット)に対して
  • 2.誰が(メッセンジャー)
  • 3.何を聴き、(伝えたい情報→聴きたい情報)
  • 4.誰(ステークホルダー/ターゲット)に対して

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その結果として

  • 5.企業との共感関係を樹立し、価値づくり(ネットワーク)に参加してもらう

広報活動のKGI(重要達成目標)の変遷

広報は費用のかからない広告?

企業にとっての目標は「売上向上」であり、広報部門も企業の内部組織であるのだから「KGIは売上への貢献」であり、そのための「コミュニケーション活動」であると言われた時代があった。特に広告費が膨大にかかるのに対して、パブリシティ活動は費用が少なく済むだけでなく、メディアを介すことによる情報の信頼性向上が期待され、「無料の広告」「マーケティング、販促活動の一部」と位置付けられたのである。

CSRと広報(企業への理解と信頼)

その後、公害や企業不祥事の多発で企業批判が強まる中、「企業の社会的責任」意識が高まり、企業は単に売上を追求する存在ではなく社会における一員として貢献が求められるようになり、CSR等の活動を通して社会との関係性の強化を重視するようになった。広報部門に対しても、さまざまな分野での企業活動の認知・理解促進を通じて「GOODWILL形成」「企業イメージの向上」によるステークホルダーの態度・行動の変容を期待するようなった。
とくにマスコミを介した好意的な情報の発信は、単に一般生活者の信頼を獲得するだけでなく、その企業で働く一人一人の従業員にとっても企業に対するロイヤリティーを形成することに貢献するなどの効果を生み出し、広報部門はメディアやオピニオンリーダーに対する働きかけを一層重視することとなった。

情報化社会は広報の役割を変えた?

そして時代は「情報化社会」「SNS社会」へと突入することとなる。情報の伝播速度とパワーは一層急速強大になり、企業不祥事発生時のダメージは計り知れないものになった。単にGOODWILLを形成するだけでは広報としての役割は果たせず、「危機管理広報」が広報部門の大きな役割としてクローズアップされることになった。SNS社会の到来は、一般生活者の情報発信を容易にしただけでなく、企業内部からの告発をも助長するといった事象を招き、単純な「守りの広報」では対応が後手に回ることとなり、「情報感度の向上」を基盤とした日頃から企業の信頼を築く「攻めの広報」が求められるようになった。

消える「マスとしての生活者?」

成熟化社会の訪れは、様々な価値観を社会の中にもたらし、「企業はこうあるべきだ」といった一般的な概念を崩していった。加えて情報が過剰に供給される中、マスコミの画一的な情報発信はそのパワーを相対的に低下させ、身近な専門家(信頼できる友人や知人からSNSなどを通して得られる情報)が様々な態度変容をもたらすようになった。そして、これまで情報を消費していた一般生活者は自らが情報を発信するメディアへと二面性を持つようになったのである。

企業への「期待感」が情報の受容性を高める?

このような時代に於いて広報部門は、そのターゲットをマス消費者から小集団のクラスタ化したステークホルダーへとシフトさせ、彼らの期待感を自社に集めることにより、その価値創造のネットワークを構築し、それをインナーステークホルダーに還元することにより、企業の「期待価値」を最大化させることが使命(KGI)となったのである。

SNS時代のコミュニケーションモデル→ASPBS

ASPBSとは

情報ニーズの変化

これまでは「鮮度」と「信頼性」が重視(時代に遅れない)

これからは、自分にとっての「情報価値」が大切「(私にとっての意味)」

1.Attention(注意)→

従来のマーケティングモデルにおいてこの段階の主役は、宣伝・広告コミュニケーションであった。今後のコーポレートコミュニケーションにおいても、もちろん宣伝広告の必要性は言うまでもない。しかし、その重要性は明らかに低下し、その役割は変化したと言わざるを得ない。

様々な情報が氾濫する中、企業からの一方的な情報提供(情報の垂れ流し)では、注意(Attention)を引くためにも膨大なコストがかかり、理解どころか認知を獲得することもままない状況にある。

ここにおいて重要な役割を担うのが、顧客を中心としたステークホルダーである。つまり「顧客の媒体化」こそがコーポレートコミュニケーションにおける最大課題となった。

2.Sympathy(共感)→

調弦された二つの楽器があるとき、一つを鳴らすともう一つの楽器も音を奏で始める。これがリアルの世界で言う「共鳴」である。これと同じように、ひとは他人の喜びや悲しみに共鳴して自分のことのように反応する。そしてこの「共鳴」はやがて人間の「情感」に変化し、その人の中に定着していく。これが「共感」である。

ここで大切な要素が「類似性」と「距離感」である。この類似性とは、まさに企業が生み出す「期待価値」に導く重要な要素であり、同時に「自分にとっての価値と効用」である。距離感とは情報提供者が情報の受け手にとっていかに身近な存在であるかを認識させることであり、その人にとって身近な存在からの情報発信こそが、この「共感」を確立する上で重要なのである。

従って、ここでのコミュニケーションの目的としては、ステークホルダーの持つ潜在的な期待価値を顕在化させるとともに、企業がその人にとって遠い存在ではなく、いかに身近な存在であるかを認識させることに他ならない。

3.Participation(期待、参加)→

「企業の世界観=期待価値への参加」は最も大きなコミュニケーションテーマである。ここでは大きく二つの視点からこのことを考えたい。

第一の視点は、企業の期待価値に共感したステークホルダーが、そこ(ネットワーク)に参加(購入)することにより自分の期待(ニーズ)を実現できる可能性を最大化する、つまりステークホルダーのモチベーション(Σ期待×実現の可能性)をいかにして最大化させるかといった視点である。

第二の視点は、実現した期待価値を感覚から知覚へ昇華させるステップである。つまり、「感覚としての満足」を「満足を知覚する(再確認)」することである。このことにより、ネットワークへの参加をより強く継続し、次のステップである情報発信へ繋がっていくこととなる。

4.Brewing(期待価値の醸成)→

期待価値ネットワークに参加したステークホルダーは、その企業価値の利用を通して得られた満足を積み重ねることにより、企業に対する期待(ニーズ)をより高次のレベルへと拡大していく。この段階でユーザーは他のステークホルダーと様々な情報を共有化することにより、前のステップとは比較にならない多くの気付き(共鳴)を経てより深く期待価値の世界へ導かれていくのである。

この段階のコミュニケーションは、必ずしも企業にとっての長所を発信・訴求するだけでなく、企業の短所についてもコミュニケートされていくことを認識する必要がある。これは、市場環境の変化(ステークホルダーの期待感の変化や、競合企業の動向など)に由来するケースが大きい。特に企業にとってこの負のインフォメーションをいかに早く吸収し、企業自身の成長に転化いくシステムを持つかは、まさに企業にとっての大きな分かれ道となる。

5.Sending(発信・共有化)→ Attention(注意)

特にこのステップが最も重要なステップになる。ここでは、企業のステークホルダーが自分の「体験(期待の実現と高度化)」を積極的に発信し、新たなステークホルダーの Attention(注意)を獲得するスパイラル構造を構築していくことがその役割になる。

当然このプロセスは全てのステークホルダーを対象に、様々な新たなステークホルダーとの関係強化、新たなスタッフの獲得(リクルーティング)、などそのためのインフォメーションの増幅により、「新たな共鳴」をおこしていくことが求められる。

同時にこのコミュニケーションを通して、既存ステークホルダー(特にインナーステークホルダー)のモチベーションの向上と企業の時代対応力の強化へとつなげていくことが期待される。

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現代のコミュニケーションとは、
期待価値創造(最大化)を目指すネットワークであり、
そこへの参加である。

企業広報を支える広聴機能

結論から述べると、広聴とは「ステークホルダー(アウターだけでなくインナーも含む)が、何を、自社に期待しているのか、そしてその実現の可能性をどの様に評価しているか」を聴くことである。

「誰かに、何かを、伝えたい」時、その「誰か」の声に耳を傾けることから始めなくてはならないことはいまさら言うまでもない。お客様からの「おしかりの声」「お褒めの言葉」「要望」に謙虚に耳を傾けることはそのスタートである。これらの声はいずれも自社に対する期待を具体的に表現したものである。「おしかりの声」は事業を改善しさらなる高みへと引き上げることに寄与する。また、「お褒めの言葉」は従業員のモチベーション向上に寄与し、さらなる価値創造に繋がっていく。

「ステークホルダーの『期待』を聴く」とは、何を指すことなのか考えたい。 期待と一言で述べたが、ステークホルダーによって様々な期待が存在する。「安心・安全」といったベーシックな期待に始まり、「社会への貢献」といった期待から、「ステークホルダーの自己実現への支援」「新たな価値の創造」など次元の異なる「期待」が混在する。また、その期待は「企業全般」に対するものなのか、その企業が属している「業界」に対するものなのか、はたまた具体的に「自社」に対するものなのか様々である。このような輻輳した「期待」を整理し、その関係をもとに構造化してまとめることが求められる。

求められる「期待」に対して自社はどの程度それを実現しているか、これからの企業活動でこの「期待」を実現してくれる可能性はどの程度なのかを把握することが重要である。つまりこの「実現の可能性」こそがその企業に対する「評価」なのである。Σ(「期待」×「実現の可能性」)を明らかにすることが、「聴く」と言うことである。

「ステークホルダーの期待」を誰が「聴く」のか更に考えたい。一次的には「広報部門」であろう。しかしこれでは「企業として聴く」と言うことにはほど遠い。それでは「マネージメントが聴く」と考えるのか。これでも答えとしては不十分であろう。広報部門やマネジメントが組織としてステークホルダーの期待を聴くことが大切である。そのためには、マネジメントや広報部門が聴いた情報が「個人の暗黙知」として蓄積されるのではなく、「組織の形式知」として蓄積されることが大切であり、そのような環境を整備することこそが「広報部門」の「広聴機能」なのである。

広報部門の役割が、「ステークホルダーの期待価値最大化のためのコミュニケーション環境の整備」だと定義するとすれば、広報部門のステークホルダーは、企業としてのステークホルダー「全て」であると考えるべきである。

広報はメディアがかつての新聞、雑誌、TV、ラジオの4マスだけであった時代にあっては、メディアとの窓口機能でよかった。しかし、インターネットという新たな強力なメディアが誕生し、さらにSNS時代に入って一人一人の個人が情報を発信し、拡散する「誰でもメディア時代」にあっては全ての個人を相手にせざるを得なくなった。その上で、企業から発信される情報(関係各部からの発信情報を含む)を常にサーチし、発信情報に整合性を持たせると共に、発信される情報のシナジー効果(相乗効果)を最大化する役割を果たさざるを得ない。

言葉を換えて言えば、広報部門は「顧客の媒体化」を積極的に支援するとともに、自らの従業員のメディア化を促進し、彼らのスキルアップや情報発信支援のための情報整備を行うといった役割が求められるのである。