揺らぐデモクラシー~2020ダボス会議

揺らぐデモクラシー~2020ダボス会議
 
 

毎年1月にスイスで開催される世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)、50回目の今年は、「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」 (プレスリリース) がテーマでした。

政治、経済、社会を代表する老若男女、世界のリーダー3000人が集まり、「株主優先」から幅広い「ステークホルダー」(ここでは従業員、顧客、取引先、地域社会、社会全体)の優先へと転換し、“資本主義(キャピタリズム)をどう良くするか”が議論されました。そして、民主主義(デモクラシー)の機能不全も指摘されました。

つまり、資本主義、民主主義を信じてきた広報PRパーソンも、発想の転換を問われているのです。

WEFについて知ろう

ドイツのクラウス・シュワブ教授が1971年に創立した世界経済フォーラム(WEF)は、官民が協力して世界情勢を良くするために働く国際機関。ここでさまざまなリーダーが協力して、地球規模の問題について検討、議論しています。

1973年に作られた最初のダボス・マニフェスト(原文)は、あらゆるステークホルダーに貢献するためのマネジメント(経営層)のあり方を示していました。

第4次産業革命下の今、ダボス・マニフェスト2020では、主語が経営層ではなく「企業」。企業全体で、すべてのステークホルダーと一緒に、“持続性がある共通の価値を作ること”への取り組みを示しています。

この“価値”とは、利益とも読み換えられるでしょう。つまり、企業が「ずっと続く、ステークホルダーがお互い納得がいく、共通の利益」を求めよう、という提言と言えます。

(参照:第4次産業革命期における“経営者の心得”–「ダボス・マニフェスト2020」をひも解く「SEMICON Japan 2019」世界経済フォーラム日本代表 江田麻季子氏オープニングキーノート

企業が学ぶ時代

シュワブ教授は、「なぜ、よりよい資本主義のためのダボス・マニフェストが必要か」の中で、

“大企業自身が、共有する将来における大きなステークホルダーであることを理解しなければならない。自社の強み(コアコンピテンシー)を使い、起業家精神を維持することも必要だ。
しかしそれだけでなく、他のステークホルダーと、世界の状況を良くするために働くべきであり、それが究極の目的であるべきだ。”

と述べました。

「グレタ・トゥーンベリ効果」という章では、

「世界が注目する10代のスウェーデン人 環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏が、“今の経済システムに固執することは、未来の世代への裏切り行為であることを、世界に思い出させた”」

と述べ、50年越しのステークホルダー資本主義の推進を呼びかけました。

David Attenborough and Greta Thunberg’s plea for the planet ビデオ
 https://youtu.be/CMOEcUPGi9c #VoiceForThePlanet #WorldEconomicForum #Davos

つまり、世界の権威、80代のシュワブ教授が、10代のトゥーンベリ氏から学び、新しいマニフェストを書いてまでして、リーダーたちを「変わらんとあかんで~」と叱咤(しった)しているのです。

企業が、社会や若い世代から、学ばなければならない時代なのです。

日本、得意やん

なぜ、いきなり関西弁風になったかというと、このステークホルダー資本主義は、日本の近江商人の「三方良し」と通ずるからです。
世界経済フォーラム(WEF)日本代表の江田麻季子氏は寄稿Japan Times)で、

「日本は、江戸時代から明治時代にかけての近江商人の「売り手良し、買い手良し、世間良し」の精神を活かし、ステークホルダー資本主義をリードできる」

と述べています。

一方で、

「過去の継続では不十分。職場の多様性を高め、必要なスキルのギャップを埋め、女性の参加を増やさなければならない」
「リスク回避し、企業文化に働きかけ、イノベーションを促進してビジネスのダイナミズムを生まなければならない」

と呼びかけています。「日本の良さを生かしつつ、変わろう」というメッセージです。

日本人の知らない民主主義?

エデルマン主催「2020 エデルマン・トラストバロメーター」(信頼指数調査)のセッション(2020 Edelman Trust Barometer Breakfast)は、データをもとに、資本主義だけでなく、民主主義も機能しなくなっている、と指摘しました。日本など数か国を除くと、世界では民主主義への不信感が高まっています。

なぜ、日本は民主主義が支持されているのでしょう。
パネルディスカッションでは、「ステークホルダー資本主義では世界に先んじていても、経済では失敗しているのになぜ?それとも、日本人は民主主義について考えることをやめた?」とモデレーターがつっこむ場面も。

5人のパネリストの1人、グロービス経営大学院大学学長 堀義人氏は、「日本では人々が意見を言わない。福島原発の後は、誰もリスクをとりたくないから、ごく一部の人を除いて日本中が原発の議論を止めた」「日本人は議論を避ける。だからわたしや孫正義氏のような経営者が、声を上げなければいけない」と語りました。

(参照:堀義人のダボス会議2020速報(2)トランプ大統領とグレタさん登場
2020 Edelman Trust Barometer Breakfast – World Economic Forum, Davos (Yahoo News)
2020 EDELMAN TRUST BAROMETER REVEALS GROWING SENSE OF INEQUALITY IS UNDERMINING TRUST IN INSTITUTIONS )

思考回路のバージョンアップ

企業や組織の広報担当者としてコミュニケーションを担う皆さんにとって、資本主義、民主主義とは何でしょうか?

正解がない広報PRの世界で、最終的なよりどころになるのは、自分の信念と、周りからの信頼です。

❝資本主義は大丈夫❞ ❝民主主義は正しい❞という固定概念にとらわれず、広報PRパーソンとして自分をアップデートする、思考の刷新が求められています。

関連:PRにおけるイノベーションとは

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